デジタルで進化する空港、関西エアポートが取り組むDXの裏側。
空港はどんどん進化する。
デジタルで進化する。
石川浩司
関西エアポート株式会社 執行役員
関西エアポートオペレーションサービス株式会社 代表取締役社長
民間企業を経て運輸省入省
関西国際空港株式会社出向 その後社員に
経営統合で新関西国際空港株式会社
2016年コンセッションで関西エアポート株式会社
2015年よりオペレーションの統括。
誰よりも現場を知り、現場を動かせる仕事人。
飛行機は好きだったし、旅行がとても好き。
地域活性化もライフワーク。
民間企業として、次々と新しい展開を見せる関西エアポート。コロナ禍を経て、空前の賑わいを見せる関西の入口として、発展を続けている。特に関西国際空港の進化は他の国際空港をリードする。
2024年9月、関西国際空港名物と言われた保安検査場前の大行列がなくなった。デジタル化された広いゲートに次々と人が入っていく。初日にも関わらず、その流れは非常にスムーズであった。
-関西空港は来るたびに進化しているように思えます。新しいことをどんどん取り入れていますね。
コンセッション後関西エアポート株式会社になり、どんどんデジタル化を推進する流れにはなっていました。
航空業界は欧米がリードしています。その中でも欧州は空港自体小さいところが多いし、拡張も難しいなか、いろんな工夫があったり、効率化のための最先端技術が次々と取りいれられたりしています。
特にデジタル化。若い企業が新しい技術を持って提案をしています。しかも日本と比べると2桁違う安いもの。そうなると失敗してもいいからやってみようという気になりますよね。
-「失敗してもいいから」というのはとても大事なことですね。
私たちもいろいろ始めました。
まずは混雑状況を可視化すること。モニターを見れば、個人情報に配慮しながら、どこにどれくらいの人が集まっていることが見られるようになっています。
次に自動チェックイン。欧州ではもう当たり前になっていました。自分でやってもらう。それも当然取り入れて行きました。
そして、今日。30周年を前に新しいシステムを取り入れました。それが保安検査場入口です。ただ改札が並んでいるように見えますが、中の混雑に合わせて、空いているところへ誘導するようにできています。
-どうデジタル化を進めていきますか。
お客様が人に頼らず、自分で判断し、自分のペースで、という流れにしていこうとしています。それが大きな方針です。
今までの日本の企業は、人手をかけることがいいと考えていたように思います。一方で人手不足だと言うのですが。
無駄なことを無駄に思わない体質が問題ですね。丁寧に、丁寧にサービスする、それはある意味悪しき習慣であり、それがデジタル化を止めてしまっているように感じることがあります。
-丁寧にやるということが足を引っ張ることがありますね。日本企業は顧客を育てる意思が低いように思います。お客様のいいなりになることがサービスだと思っているところが多いのではないかと。
そうですね。たとえば、コンビニエンスストア。セルフレジが増えています。しかし、セルフレジが空いていても、有人レジに行列ができる。すると他の店員の方が飛んでいき別の有人のレジを開けたりサポートしたりする。本当はセルフレジを学ばせる機会になるはずです。その方がお客様も待たなくてすむのに。
セルフレジがメインになるべきですよね。
-関西空港の特徴とも言えると思いますが、搭乗口やラウンジが航空会社でわかれることなく一括運営されていますよね。国際線のラウンジもそうなるそうですね。そして、チェックインもどの機械を使ってもどの航空会社のチェックインができるようになっていますね。あまり他では見ないように思います。
関西空港は利用されている航空会社の数がとても多い特殊な事情があります。60~70の会社が一部を除き大きなシェアを持つことなく利用されています。その各社がカウンターを占有してしまうと無駄がでます。効率的な運営を考えると彼らに占有させない方がいい。空港がコントロールしている中、タイムシェアしています。
-多くの空港ではまず着いたら自分が乗る飛行機の航空会社のカウンターを探すのに対し、ここでは空いているセルフチェックイン機に行き、すぐにチェックインができますね。
やはり「全部自分でやる」ようにしていこうと思います。そうなるとカウンターによる必要もなくなります。カウンターで預ける荷物を受け取らなければならない航空会社もあったり、国によっては書類が必要であったりして現状は全部とはなっていませんが、将来的にはそう目指しています。
-それぞれの航空会社の使っているシステムが違うのに、一つに集約できているのはすごいですね。
そうですね。主に使われている3社のシステムがあるのですが、それぞれのデータ交換ができるようにはなっています。ただ、それがうまくいかない場合もあったのですが、試行錯誤して、エラーを全部クリアしてやっと運営できるようにしました。それは何年かかかりました。
-報道のあり方にも問題はありますが、空港や航空会社のシステムは頻繁にトラブルがあるように感じることがあります。
日本はすぐに100%を求めますよね。そんな国民性なのでしょうか。小さなトラブルも許されないようなムードがあります。特に空港はそうです。
しかし、鉄道はもう何十年も前から自動改札をやっていて、全国に普及しています。あのようにスッと入れるようになればいいのですが、まだまだカウンターでお客様とやりとりしながら、一生懸命端末を叩いて、いろんな確認をしていますね。すでに情報は全部航空会社には行っていて、席まで決まっている。何をそんなに確認するのだろうかと。
自動チェックインならピッとやるだけなのですが。
-デジタル庁を始め多くの官庁は「誰一人取り残さない」と言っていました。まさに100%を求めています。こんなにデジタル化して、わからない人が増えたらどうするのかという声はないですか。
最たるものがマイナンバーカードですね。全員持てば便利ですよね。しかし、うまくいっていない。あれは、「カード」にこだわりましたよね。「ナンバー」だったらいいのに。ナンバーだけで利用の仕方はどうあってもいいはずなのに、とにかくカードを使うことを進めた。カードの更新のためにわざわざ役所に行って、ピッとやる。「ナンバー」ならそんな面倒なことにはならないはずです。
まずどうすればより多くの人が便利になるか、どうなっていればいいのかを考えて進めるべきだと思います
-今はセルフチェックインや保安検査場入口にスタッフの方がたくさん立っていて困っている人のサポートをしていますね。
自動化に関して、我々が航空会社に対してやや強引に進めているところがあり、一部の航空会社は乗り気ではないのも事実です。お客様全員が自分でできるわけではないから、それでは困ると。
しかし、どんどん航空機が増えていくと効率を上げていかないと空港は回らなくなります。従来のやり方では進んでいかない。そこで困る人が出ないように今はスタッフがお手伝いしているという状態です。
-実際に文句を言う人はいないのですか。
ほとんどいません。ボタンを押すだけですから。デジタルの遅れでなんとなくわからないような気がしている人がほとんどです。しかし、そもそも本当にデジタルが全く使えない人は一人で旅行に行かない世の中になってきていると思います。
シンガポールなど事前にデジタルで登録していないと入国が難しい。デジタルが使える、スマートフォンが使える前提ですよね。
-アメリカのMPC(Mobile Passport Control)のようなシステムは導入していくのでしょうか。
それは、CIQ(Custom Immigration Quarantine)の話なので、詳しいお話はできないのですが、世界の流れもあるので、そのように進んでいくのだろうと思います。
-そうですね。世界でどんどん動いていきますね。海外の空港で進んでいると感じているところはありますか。
スマートなのはシンガポールですね。国家統制が強いので、航空会社も出入国管理も税関も警察も一体ですね。彼らは皆一ヶ所にいるわけです。空港全体でどう動かすべきかを考えています。決定が早いです。コロナの最中でもスムーズでした。
日本は隅々まで意見を聞いて書類を回して・・・時間がかかりますね。
-空港のデジタルの展望についてどうお考えですか。
全部、自分のペースでできること。
自分でできる人をつくっていくのですが、当然できない人もいます。人によってペースは違います。その人たちが一つの列になると、全員が遅い人に合わせた動き方になってしまいます。
自分でできる人、できない人を分けて、できない人だけに人を配置すればいい。そうすれば列はどんどん減っていきます。
空港のスペースや資源や人をきちんと配置して生産性を上げることです。
世界的にうまくいっていないのですが、パスポートと航空券と生体認証を一元管理すること、そうなれば、空港に来たら何もしなくてよくなります。歩いていけば、自動的にいろいろチェックできるはずです。それは技術的にできるはずです。
ただ、まだ100%ではない。サングラス、マスクなど顔認証を妨げるものもあり。しかし、それも超えていけると思います。
紙ベースの航空券、搭乗券の位置付けも変わりますね。そもそもパスポートで航空券を認証しているのだから、パスポートさえあればいいはずなのです。One IDがキーワードですね。世界中で搭乗券とパスポートやIDカードを照合する場面が空港にたくさんあります。ここに人間が介在する。ヒューマンエラーが生まれやすい。無駄がトラブルを生むこともあります。
全体を見て、最適化を繰り返す。本来あるべき姿を見ていなければならないです。
所感
DXの現場ではしばしばデジタルや効率が目的化してしまうことがある。それによりかえって無駄が生まれたり、エラーが発生したりする。
人間、経済、事情・・・空港はあらゆるものの坩堝である。そこでのオペレーションをリードする。底抜けの笑顔で動かしていく。
目的、目標、そして目の前の課題。ミクロとマクロを行ったり来たりしながら動かす。それはあるべき未来を見て、共有し、実行していく力。
DXはデジタライゼーションではなく、イノベーションをつくること。デジタルデバイドの問題はできない理由ではなく、推進のエンジンになる。
取材 デジタルわかる化研究所 松浦裕之 / 西村康朗
取材実施日2023年9月3日
【ライタープロフィール】
松浦裕之
株式会社大阪メトロアドエラCMO。デジタルわかる化研究所のメンバーとして初期から参画。
西村康朗
株式会社分室西村 代表取締役。デジタルわかる化研究所のメンバーとして創設時から参画。
1986年株式会社オリコム 1990年株式会社博報堂 2020年株式会社分室西村設立