<後編>「沖縄の子供たちに知る機会を与えたい」 親子プログラミング教室を沖縄で開く大切さとは?

2023.06.13 インタビュー

2023年3月沖縄県糸満市「沖縄デジ・ロボ・ラボ」にて児童・生徒向け「親子プログラミング教室」が開催された。沖縄デジ・ロボ・ラボの立花所長に教室実施に至るまでの想いを取材する中で、沖縄県の抱えるIT教育の事情や、地域による子供のデジタルデバイドが浮き彫りになった。子供のデジタルデバイドを解消するにあたって大人が今取り組めることとは?ぜひ最後までご覧ください。

-この記事は(<前編>親子で学ぶデジタルとの付き合い方 糸満市の親子プログラミング教室)の後編になります-


*教室運営メンバーの3名。左から長南さん、西さん、立花所長


沖縄でプログラミング教室を開く意義

-沖縄でプログラミング教室を開こうと思い至った背景をお聞かせください。

立花所長:愛知・東京・大阪と違い、そもそもロボットやデジタル機器に触れる機会が沖縄の子供たちにはすごく少ないです。この機会の少なさがすごく大きな違い、格差になっていると思います。触れたこともない、触ったこともないモノで、新しい何かを作り出せと言われても、そもそものモノの説明から始めなくてはならないのです。

-この違いは子供たちにどのように影響するのでしょうか?

立花所長:特に社会人になってから影響が出ると考えます。学生時代は差があることに対して皆寛容ですけれども、社会人になった瞬間から実践の中に叩き込まれます。「最低限このぐらいできてほしい」から「できないのはお前が悪い」みたいな見られ方になっていく。仕事の場合、他よりも遅れれば、マイナスな影響になっていくのが現実です。

だから地域の違いによるスタートラインの差は、社会人になるまでの間に得られる経験はできる限り同じレベルにしておく必要性がある。また、このことは給与面にも言えると思います。同じ努力をしたとしても育った環境での経験差から、給与に差が出ています。

-教室内では給与面に加えて、そもそもの会社選びの選択肢にも影響するとお話しされていましたね。

立花所長:会社を知らなかったから入れなかったということと、知ってたけど入れなかった、もしくは入らなかったということは全く違うと思うんです。その意味で、デジタルデバイドは単純にそれを知ってると給料が上がる下がるというよりかは「知らないとスタートラインにすら立てない」という問題点を抱える話になるかなと思います。

当然その会社を知った時点、入社試験を受けた時点で、既にデジタルを使うことが当たり前になってる子供たちと、そうでない子供たちで勝負してるわけです。会社側として見たら、入って即戦力的になりそうなぐらい知識のある子と、これから教えないといけない子のどちらを採用したいかは明確です。そこでまた格差が生まれるわけです。

-この格差を埋めるために今できることはなんでしょう?

立花所長:やはりできる限り大人たちがそのスタートラインの差を解消していく義務があるんだろうと思います。加えて、新しい技術が登場した際にそれに追いつける能力も子供の段階から鍛えていくべきだと考えています。社会人になってしばらくして新しい技術が登場した時に、それが使いこなせなければ再び格差が生まれることになりますから。

職業選択も働き方も、場合によっては生活の仕方でも、情報がないことによる格差によってその後の生活が大きく差が出てしまうのは喜ばしくない。だからまだ子どもたちが自分の力で一から生きていく前の段階で、大人が責任を持って、追いつくための能力を与える。それがある意味当たり前の社会なのかなと思うのです。それは言うなれば、「沖縄でデジタルデバイドに取り組む意義」ですね。沖縄の大人としての意義です。

-「沖縄で」取り組む意義ということですが、他にも内地との差を感じられていることはありますか?

立花所長:子供達を見ていて思うことは発想の仕方に違いがあると感じています。例えば冷蔵庫一つにしても、冷蔵庫とクーラーの考え方が似ているということは、「ものづくり」に接している子供だと共感してくれると思うのです。空気や空間を冷やすけれど、その周りの空気や空間の温度が代わりに高くなってると。これは子供のうちから「ものづくり」に触れる機会があるから発想できるのだと思います。

ただ沖縄だと冷蔵庫は「初めから完成している買ってくるもの」という認識になっています。そのため自分たちで作る、仕組みを理解するものではなくなっています。その時点でそもそも「仕組み」に対して意識が向かいにくくなっているのです。仕組みへの関心に違いが生まれていると思います。

-その差はどこから生まれるのでしょうか?

立花所長:沖縄にあまり機械を作る工場が少ないことにあるかと思います。例えば私の故郷の名古屋の場合、少し遠出すれば工場を見に行ける。小学校によっては社会科見学ということで学校総出で見学に行く機会があります。それに対して沖縄には機械を組み立てる工場はほとんどないです。

そうするとそこには「思考の差」が生まれてくると思うのです。「物の原理」を理解すれば自分たちでも作れるという発想になかなか至らない。だから最初から出来上がってるもの、作るものではないと思い込んでしまう。

-モノを作る過程を見られないことから、思考の違いが生まれることに原因があるのですね。

立花所長:これは沖縄に限った話ではありません。少し前になりますが「魚を描け」と言われたとき、切り身を描いた子がいたニュースがいい例です。僕ら魚を知っている人が切り身の絵を描く子供を見たら違和感を感じます。

ただ、泳ぐ魚を見たことがない子供からすると、頭があって、尻尾のある状態で泳ぐ魚を実際に見ることがないわけですから、切り身状態の魚こそが想像される身近な魚のイメージになってしまうのでしょう。これが沖縄の場合、機械・デジタル産業になっているのです。

-実際に工場見学できるのが理想ではありますが、一朝一夕で誘致できることではありません。だからこそ、まずは知る場所を作って、興味を持ってもらうことが重要になっていそうですね。

教室の様子を振り返って

-今日の教室の子供たちや保護者の方々の様子を見て、手応えはいかがでしたか?

立花所長:驚いたのが、教室に参加してくれた子がわざわざ帰ってきて「とても楽しかったです。ありがとうございました。」と言ってくれたことですね。大抵のイベントだと、皆すぐ帰って終わりだそうですけれど。そんな子を見たときに、本気で考えたら本気で返してくれるものだなと感じました。やってよかったなと。そしてもっと頑張らないといけないかなと思いました。

-その子には今回の教室が魅力的に感じられたのでしょうね。

立花所長:試しにやってみるだけでも価値があると言えそうですね。糸満市さんからお話しいただいた時に想像していたこと以上の満足感、達成感が味わえたなと思います。

-より多くの沖縄に住む子供たちにものづくりに興味を持ってもらうために、今後どのような取り組みが必要になっていくと感じられますか?

立花所長:子供たちが興味を持つ機会を作れる大人たちは、市町村の教育関係者よりも民間企業に属することが多いのですが、民間企業も地方自治の一部であり、教育の関係者でもあるという考え方が必要だと思っています。民間企業=地方自治の一部=教育の関係者という等式です。

今回は糸満市という行政の枠組みでの教室でしたが、そのまま地方自治の枠組みで広域に考えるのであれば他の市町村、それから県という単位で広げていくことになるかと考えています。

糸満市以外の行政の担当者の方々も、おそらくデジタルや機械にまつわる危機感を持ち、問題だと思ってはいると思うのです。ただ、行政から民間に、民間から行政にアプローチする工程が常態化していると感じています。いわば行政と民間は立場を含めて別物で、そこには壁があると言う認識です。

ただそうではなく、同じ危機意識を持っているのであれば同じ地方自治の一部として、お互いに知見を共有する形で進めていければ今よりもずっと早く広げていけるのではないかと想像しています。

実際社会は民間企業だけでできているわけではないですし、行政だけでできているわけでもありません。同じ未来の子供達のために教育に力を入れるという志を持っている仲間同士なのですから、分け隔てなく、教育の関係者として広げていければと考えています。所属や場所が違っていても、「大人として子供たちに与えたいものは結局同じだ」という風に考えています。

―今回は貴重なお話、ありがとうございました。


おわりに

通販番組を見ているとしばしば登場する触れ込みがある。「離島・島嶼部は別途送料がかかります。」船での運搬コストがかかる都合上、この割増料金は致し方ない費用であろう。ただ、この令和の時代に、情報の入手に対して割増料金がかかっているとなれば話は変わってくる。

立花所長は沖縄に住む子どもの周囲に機械・IT産業がないことに起因して、その産業を目指す子どもが少ないことを危惧していた。「知らない」ことが、結果格差を更に広げている。当人の努力が届かない範囲での格差に問題意識を感じていた。そしてそれを解消するために大人たちが提供できるものが「知る機会」であるとしていた。

この知る機会について、デジタルわかる化研究所でも「デジタルデバイド原因マップ」にて紹介している。デジタルデバイドに至る最初の段階として、そもそも知らないことが挙げられる。デジタルサービスや機器にまつわる更新情報は大抵オンラインで発信される。当然そういったサービス・機器に苦手意識を持つ方々へ情報が到達するのには時間がかかる。要は知る機会が後回しにされている。結果余計に格差が広がっていく。

この現状を考えた時、デジタルデバイド解消に向けた取り組みとして、オフラインでの知る機会の提供が挙げられそうだ。あるいは逆の視点に立てば、オンラインで最新情報を自力で獲得する力が求められているとも言えるだろう。知ろうと思った時に知りにいける環境があることがデジタルデバイド解消の糸口の一つと言えそうだ。

取材・撮影
デジタルわかる化研究所 清水出帆
取材実施日2023年3月25日  

-この記事は(<前編>親子で学ぶデジタルとの付き合い方 糸満市の親子プログラミング教室)の後編になります-

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