畜産DX ~畜産業のデジタルデバイド解決法とは~
「スマート農業」。デジタルを活用することにより省力化や高品質生産を実現している新たな農業を指す。そんなスマート農業も多くの人が知るようになった一方で、農業と近しい畜産業も人手不足によりデジタル化を必要としていた。ただ広大な山奥で行われる畜産業は電波が届かないという環境的なデジタルデバイドにあった。そんな畜産業のデジタルデバイドを解消しスマート化をもたらしているのが、株式会社YEデジタルが開発した飼料タンク残量管理ソリューション「Milfee」。 どのような背景、想いがあったのか担当者に伺った。
語り手:株式会社YEデジタル マーケーティング本部 事業推進部 町田様 聞き手:デジタルわかる化研究所 柴 圭佑 / 清水 出帆 取材実施日:2023年4月5日
――まず「Milfee」について教えてください。
畜産業は家畜を育てるための飼料が必要です。その飼料は高さ6mほどあるタンクに貯蔵されています。農家さん、飼料メーカーさん、配送業者さんは毎回6mあるはしごを上り、蓋を開けて残量確認するという作業が発生します。これが非常に危険な作業で落下してケガをしてしまい、最悪亡くなってしまう、そんな事象も起きていました。
そこでこの「Milfee」を活用すれば、毎回上って確認をしなくてもタブレットやスマートフォンなどで飼料の残量を確認することができます。
――「Milfee」を開発したきっかけはなんだったのでしょうか。
いきなり畜産業に至ったわけではありません。最初は農業からスタートしました。ビニールハウスを加温するために必要な燃料タンクの残量を監視するソリューションが「Milfee」開発のきっかけです。
ビニールハウスで高品質な野菜、果物を育てるには適切な温度と湿度の管理が必要で、そのためには多くの燃料が必要です。その燃料は少なくなったら農家から業者へ都度連絡をして、タンクローリー車が給油へ回る。ついでに他の農家へ残量が少なくなっていないか巡回確認を行っていました。
業者側からしたらこの巡回給油は非効率でコストがかかることが問題でした。農家側からしても燃料が切れてしまって農作物の品質が低下してしまうことや毎回目視で残量を確認する手間があるという問題もありました。これでは両方にとって無駄が多いなと思い、燃料タンクに取り付けるとタブレットやスマートフォンなどで残量が把握できるセンサーを開発しました。これにより農家は目視確認が不要になり、業者は残量を遠隔で把握できるので効率的なルートで給油を行えて約4割のコスト削減につながりました。
――燃料タンク残量監視の成功からヒントを得たわけですね。
そうです。関係者と色々と話していく中で畜産業の飼料残量にもニーズがあるのでは?という意見が出て開発に着手しました。そして完成した「Milfee」の提供開始以降、おかげさまで現在全国258農場へ導入いただき順次増えていっている状態です。
――畜産業の方は新しいデジタルサービス導入をすんなり受け入れたのですか?
拒否反応を起こされる方は少なかったです。それには理由が二つあると思っています。
1つに畜産業は今、人が減ってしまっていること。畜産業は飼料タンクの残量をはじめとした管理がとても多いのです。その他にも、家畜の健康状態や生育状況を小屋の中を歩き回って毎日管理する必要があります。かなりの数になるので人が少ないとそれだけ多くの時間を要します。
2つに高齢化です。先ほど畜産業は管理がとても多いと述べましたが、その管理は重労働なものが多いです。飼料タンクを管理するために昇り降りする作業は数も多くあります、毎日となるとかなりの労力を要します。
これらを考えると畜産業としてやっていくには、労力がかかる管理をデジタル化するしかない、そんな思いを持っている方が多いと思います。飼料残量確認以外にもやるべき管理作業はたくさんあります。それらをデジタル化するメリットをよく理解している方は多い印象です。
――そんな中でもデジタルサービスを受けたくとも受けられないひともいますよね。
はい。畜産業は匂いや土地の問題で山奥にある場合が多いです。加えてかなり広大な土地が必要になります。そうなると事務所は電波が通っても、タンクなどがある場所は電波が通らないそんな環境も往々にしてあります。
――いわゆる環境的な要因の「デジタルデバイド」は畜産農家の大きな問題ですね。
そうなのですが、畜産農家さんだけの問題ではないのです。
――だけではない…?
はい。冒頭の燃料タンク残量監視ソリューションと同様に「Milfee」を導入していない畜産農家さんがいると、飼料を供給する業者は効率的なルートを組むことができず効率が落ちてしまいます。
――それを解消できる「Milfee」LoRa親子通信モデルもこの3月に発表されましたね。
「Milfee」を各農場へご紹介していく中で、メインの農場は電波が届かないけども、ある一部であれば電波が届く、そんな声をいただいて開発したのが「Milfee」のLoRa親子通信モデルです。電波が通っている事務所などの場所に「親機」を設置して、飼料タンクには「子機」を設置します。それらを親子通信することで遠隔管理が可能になりました。今まで「Milfee」を導入したくても、タンクの設置場所に電波が届かないため導入できない畜産農家さんもおりました。そんな方から喜びの声を頂いた時はやってよかったと思いましたね。
――最後に今後の展望を教えてください。
もっとこの「Milfee」を全国へ広げていきたいです。現在約2500基のタンクに「Milfee」を導入いただいておりますが、全国にはおよそ40万基の飼料タンクがあると業界内で言われています。もっと導入いただける農家さんを増やしていきたい。また増やしていくにつれて、様々なデータから新しくわかることも出てくると思います。それをまた畜産業に関わらず、様々な分野で貢献できるような活動をできたらと思っています。
株式会社YEデジタル
https://www.ye-digital.com/jp/
「デジタルデバイド」は畜産農家側だけの問題ではない。畜産農家の通信環境が整っていないことによるデジタル化の遅れは、結果的に畜産農家を支える事業者の業務効率にも影響してしまっている。このことから「デジタルデバイド」は必ずしも当事者だけの問題ではないことを気づかされた。自分はスマホを使いこなせている、今の環境に不満はない、と「デジタルデバイド」を自分事化しない人が多いと思う。しかし、実は自身の周りに「デジタルデバイド」問題が潜んでいて、その問題を解決すればもっと便利で、幸せになっている、そんな可能性も往々にしてあるのではないか。ふと立ち止まって「デジタルデバイド」について考えてみる。それを一人一人が実践していけば、よりデジタルと良い関係で幸せな世界になるのではないだろか。
デジタルわかる化研究所 柴 圭佑