「シニアの毎日に豊かさを」シニアの生活支援に取り組む、MIKAWAYA21が考えるシニアとデジタルの関係とは?

2023.08.02 インタビュー

「デジタルデバイド」と聞いて、その格差の中の存在として真っ先に思い浮かべられる“シニア”。特に高齢社会の日本では、情報だけでなくさまざまな分野においてシニアが取り残されてしまうのが現状です。そんな中、シニアの暮らしに寄り添いサポートを行うMIKAWAYA21株式会社にインタビューをしました。

取材・撮影
デジタルわかる化研究所 原隆太 豊田哲也 飯野由季
取材実施日2023年6月9日 

MIKAWAYA21株式会社
シニアの生活支援事業「まごころサポート」のフランチャイズ本部を運営。
電球交換や買い物代行、スマホ教室の開催、土地の売却や相続の相談まで幅広く対応するサービスとして、全国の地域密着企業206社が加盟中。超高齢社会における課題解決を目指している。

――まず、まごころサポートはどのような事業なのか教えていただけますでしょうか?

まごころサポートは介護保険の適用範囲外でシニアの日頃の困りごとをワンストップでサポートするサービスです。補助金をいただかずに民間のサービスとしてご要望を解決しています。電球交換や買い物代行、さらにはリフォームや不動産処分のご相談もあります。ほかにも誕生日にケーキを食べに行きたい・一緒に出掛けたいなど、何かを一緒に楽しんでほしいというようなご相談もあります。「シニアの毎日に豊かさを」というビジョンに基づいて、ご相談の大小関係なく、シニアの実現したいことを叶えるために取り組んでいます。

――シニアの方からご依頼をいただくためにどのようなことを行っているのですか?

今メインで取り組んでいるのは、地域の介護事業者さんや地域包括支援センターにお伺いしてケアマネージャーさんとの関係性を作り、サポートを必要としている方をご紹介頂くということです。1人のケアマネージャーさんで30人ほどの介護を必要とする方を担当されていて、どんな問題が頻発しているのかをよく把握されているからです。

ケアマネージャーさんたちはどうしても介護保険の適用範囲内でしかお手伝いできません。例えば二人暮らしのお宅に行っても介護保険が適用されている奥さんの分しか洗濯物を畳んではいけないですし、ペットのトイレ砂を代わりに購入する、ということもできません。

――ケアマネージャーさんへの依頼は生活を維持するために必要なことに限られるというのが現状なのですね。まごころサポートではどのような方が依頼されるのですか。

単身の高齢者が多いというイメージかもしれませんが、荒川本店での感覚値的には単身者が3分の1、あとはご夫婦や2~3世帯暮らしの方です。

――ご家族と同居していてもご依頼があるのですね。

はい。ご家族への遠慮があったり、一緒に住んでいても孤立していたり、という場合もあります。今のシニアの特性として、ぎりぎりまで我慢する・人に頼むことが恥ずかしいという感覚を時代的にお持ちの方が多いと感じています。ですからサービスをご案内するときも急に「なんでも相談してくださいね」とお伝えしても、「私はシニアじゃないから・・」と皆さんおっしゃられるんですよね。私たちも関係性がない人に対して何かお願いするのは気が引けるのと一緒だと思います。

依頼内容を伺いサポートする担当者のことを「コンシェルジュ」と呼んでいます。コンシェルジュがシニアのお宅に4~5回訪問することでご相談いただけるというケースが多いです。さらに、お会いするごとに会話量が増えたり、資産や不動産など普通の人には話せないようなご相談をしてくださるようになったり、という傾向もあります。営業感があるととたんに心を閉ざされてしまうので、「顔見に来たよ」という感じで家族のように頼れるような、それでいて友達感覚のような距離感を意識しています。

――そのようなデリケートなお話が出た時、依頼者の方だけでなくご家族などにもお話をされるのでしょうか。

ご家族やケアマネージャーさんを介して第三者にも合意を得るようにするなど、メニューによって適切なプロセスを踏むように心がけています。私たちが突然現れた見知らぬ企業あればご家族から反対を受けると思うのですが、「日常的に助けてくれているまごころさんだったら・・・」ということで安心していただけるのだと考えています。

依頼してくだる方はケアマネージャーさんの名刺とあわせてまごころの名刺を冷蔵庫や電話帳に貼っておいてくださることが多いです。最初ご家族は「何これ」と心配されるのですが、そこまで金額的に高いわけではないですし、定期的にお伺いして活動報告のような細かいご案内をしています。その時の資料をお宅に保管してくださるので、ご家族の方もそれをご覧になることで不安を解消してくださっています。

そしてまごころサポートはフランチャイズとしても全国展開していて、地元で長く経営されている企業(プロパンガスやガソリンスタンド・新聞・牛乳販売)が加盟店となっているということも、安心の理由の一つだと思います。

――昔から知っている会社のサービスなら、ということで安心されるのですね。加盟店ではどのような方がコンシェルジュとして働いていらっしゃるのですか?

コンシェルジュの方も年齢層が広く、10代から80代までいらっしゃいます。例えばメルカリの使い方教室なども開催していますが、そちらは比較的若い大学生の10~20代が担当しています。コンシェルジュは各地域の加盟店が求人サイトから募集しています。報酬は完全成果型なのですが、稼ぎたいからというよりは、両親や祖父母に何もできないままお別れしてしまったなどの原体験を持っていて、人の役に立ちたいという思いを抱かれている方が多いです。 他者貢献の気持ちが強く、心優しい方という印象です。

中でも一番多いのは50代主婦です。
お子さんがいて長時間働けない方でも自分の隙間時間で人の役に立つことができる、ということを感じてくださっているようです。自分の子供の手が離れると、人生の喪失感や焦りを感じられる方が多くいるそうで。周りは会社で頑張っていて、でも自分が今から働くのはちょっと・・というようにコンプレックスを抱いてしまうことを「中年の危機」と呼ぶそうです。また、看護師や介護士の資格を持っていても現場復帰は難しいというような方のニーズにも応えられる仕事となっています。

――コンシェルジュの方にとっても「自分が誰かの役に立っている」と実感できるという点で大きなメリットがあるのですね。つづいて、MIKAWAYA21が開発された「マゴコロボタン」についてもお伺いできますでしょうか。

「マゴコロボタン」とは音声で市民の生活を支えるデバイスです。今日の日にちや飲む薬をお知らせするなど、認知症予防のためにカスタマイズすることもできます。さらに二回ボタンを押すとコールセンターに通知がいき、電話がかかってきます。こちらは普段サポートさせていただいているお宅に提案し、必要であれば置いていただいています。

ボタンを置く前と置いた後ではサポートの件数が4倍ほど増加したというデータもあります。気軽に押して、コールセンターからの電話からサポートを依頼できるからです。頻繁にボタンが押されるというわけではないですが、繋がれる存在が家の中にあるという安心を感じていただけていると思います。Wi-Fiの環境がなくてもコンセントに刺すだけで使えるのでハードルが低く、監視されているような感じもありません。こちらは単身者の利用が多いです。

――デジタル技術によって「繋がれる安心感」をもたらしているのですね。他にもデジタルを使用したサポートは行われているのですか?

スマホ教室を開催しています。ケータイショップで購入した後、聞きたいことがあってもどこにショップがあるのかもわからず、まごころサポートのお店に駆け込む方が多くいらっしゃいます。よくあるスマホ教室だと、教える内容が画一化されていているために前回聞いた話をもう一度聞くことは難しいんですよね。

しかしまごころサポートのスマホ教室であれば、家に帰ってメモ見たけどよくわからなかった、というようなことを何回でもお教えすることができます。何度もご参加されるうちに、QRコード決済を使えるようになったり地図を見て行きたいところに行けるようになったり、徐々にできることの範囲が広がっていくのです。ただ、サポートする側の忍耐力も必要で、何回同じこと聞かれてもちゃんとお伝えするということは難しいポイントでもあります。

――自分では使い方を理解していても、人に説明するとなるとまた違う難しさがありますよね。声掛けされる上で大事にされていることはありますか?

「スワイプ」や「ダウンロード」といったカタカナ言葉を言い換えるのではなく、そのまま伝えることです。最初のうちは「ダウンロード=取ること」などと伝えていたのですが定着しないことがわかりました。教室外でスマホを使うときにわからなくならないよう、その言葉のままで伝えるというのは私たちにとっても大きな気づきでした。

全国でスマホ教室を開催しているとリアルな課題が見えてきます。私たちはスマホを普通に使えていますが、シニアの方は手が乾燥して反応しない・手が震えて押せない、ということがあります。例えば「教室にはタッチペンがあった方がいい」など、実際やってみたからこそ分かったことがたくさんあります。また、躓くポイントが人によって違うのでその方に合わせてお教えすることもとても大事です。

――最後に、ふだんシニアの方と接する機会が多いお二人から見て、シニアとデジタルの関係についてのどのようにお考えでしょうか

スマホ教室で出会った方同士でお友達になりLINEグループで「おはよう」や「おやすみ」と送り合ったり、喫茶店に行く約束をしたり、新しいつながりが増えています。家族とのコミュニケーションも増えますよね。デジタルなしでは必然的に人とのつながりが薄くなってしまいますし、場合によってはSOSに気づいてもらいにくくなる危険性もあります。同世代や他の世代と関わる機会も減る中で、デジタルが使えた方がいいのだろうと思います。

デジタルのメリットを知ったうえで必要ないという判断をするならいいと思うのですが、よくわからないからという理由で可能性を狭めているのは良くないと感じています。私たちのサポートや一人のシニアからまた違う人へ、と興味を持つ人が増えていって可能性を広げていければとても嬉しいです。スマホ教室で言うと、参加者は「学びたい」「解決したい」という何かしらのモチベーションがあります。しかし本当に必要なのはそれ以外の方のサポートなのではないか、という思いもあります。一方的に勉強しましょうということだけだと参加していただくのは難しいので、口コミで広げてもらえたらと考えています。

デジタルわかる化研究所ケアマネージャーさんは介護保険の適用の範囲でサポートを行うため、夫婦二人暮らしであっても保険が適用されていない方の分の料理は作れない・洗濯物は畳めない・・・という実態に驚きました。さらに民間のサポートであっても何か月先まで予約がいっぱいというところが多いそうで、供給が需要に追いついていないのが明白です。核家族化が進みご近所づきあいは減り・・・いざというときに頼れる人が少なくなっている中、デジタルが使えなければますます他者のつながりが薄くなってしまうことを実感しました。
スマホ教室のお話では、デジタルへの親しみ以前に身体的理由から使いこなすことが難しい方もいるということをお聞きしてハッとしました。それぞれの世代の「当たり前」が異なる中、その格差をデジタル技術で埋めていくようなものが今後さらに必要とされてくるのだろうと感じました。

ライター 飯野由季

 

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